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弁護団は東京高裁に何を訴えたか(3.15再審開始を求める集会より)

目次
J 総論

K 間壁鑑定の意義

L 沢渡鑑定について

M 凶器とされたくり小刀

N 浜田鑑定・手紙分析・
上告趣意書草案分析
J総論(小川秀世弁護士)

 弁護団の高裁段階での活動状況や主張する内容について、静岡地裁段階との違いを強調し、再審実現の意欲を語った。活動面では、多くの若手弁護士の参加など、弁護団の体制が強化され、また支援者との連携も緊密となった。主張する中身についても犯行着衣にしぼり、5点の衣類そのものが警察のねつ造であるとした。結果として裁判所の対応にも、DNA鑑定を実施するなど、変化がみられた。

 

K 間壁鑑定の意義(小川央弁護士)

 原審・東京高裁において行なわれた砺波(となみ)鑑定は、味噌漬けズボンの縮み具合を調べたもので、異例なことに3回も行なわれた。最初の2回は袴田さんに有利な結果(ズボンはもともと袴田さんには、はけなかった)が出ていたにもかかわらず、3度目のやり直しではウールのズボンを洗濯機で洗うなど、およそ一般常識からかけ離れた実験で、無理矢理袴田さんに不利な証拠を導いた。間壁鑑定では、ズボンのもともとの糸密度から導かれた砺波第2鑑定こそ正しいものと証明した。

(資料)間壁鑑定の意義(文責:小川央弁護士)

間壁治子教授作成の鑑定書の意義

 弁護団は5点の衣類のうち、鉄紺色ズボンのサイズに関する新証拠として、間壁治子共立女子大学家政学部教授作成の鑑定書を提出しました。

 この新証拠は、5点の衣類のズボンが袴田さんの物ではないということを、示す新証拠です。

1 原審東京高裁の認定

 東京高裁における5点の衣類の着装実験の結果

 ・袴田さんは、5点の衣類のズボンをはくことができなかった。

 ・袴田さんが現実に使用していたズボンは、はくことができた。

  ↓ 常識的に考えると

 5点の衣類のズボンは、袴田さんのものではない。

  ↓ but

 東京高裁は、5点の衣類を袴田さんの物と認定

  ↑ なぜなら

 袴田さんが太ったという推認

 信頼性の薄い砺波第3鑑定に基づき、ズボンが縮んだと認定(5点の衣類が犯行着衣であることは争われず、かつ、袴田さんの実家から発見された、ズボンの端布と、5点の衣類のズボンとが同一であることが認定されていることが前提としてある。)

2 砺波鑑定の問題点 

 砺波鑑定は、都合3回行なわれています。それぞれの結論は下記のとおりです。

 ・第1鑑定 味噌漬けズボンの素材である純毛の繊維は、味噌漬によっても化学的、物理的変化をしない。

 ・第2鑑定 (袴田さんが事件当時はいていたズボンのウエストは、76cmであるにもかかわらず)、味噌漬けズボンのもともとのウエストサイズは72.34〜73.4cm

 ・第3鑑定 味噌漬けズボンのもともとのウエストサイズは、74.5〜76.1cmであったとの結論を出したのです。

 第3回目の鑑定に際して、東京高裁は、味噌漬けだけでなく経年変化、つまり味噌漬けになった上に年月が経過したことによる変化を考慮するとどうなるか、という点を鑑定させました。

 しかし、通常、同じズボンを3回も鑑定に出すということは考えられません。東京高裁が、自らの望む鑑定結果を求めて、同じズボンの鑑定を繰り返させたこと、そして砺波氏が何度も同じことを鑑定させた裁判所の意向を受けて、迎合的な結論を出したことは明らかでした。

3 間壁鑑定の結論

 1、砺波第3鑑定でズボンのサイズが収縮した理由は、同鑑定において鑑定人がウールのズボンを家庭用洗濯機で洗濯していたことと計測結果についての誤りであることを明らかにした、

 2、砺波第3鑑定においては、裏地もしくは芯地の影響を推定しているが、間壁鑑定は、この推定には何の根拠もないことも明らかにした。

 3、砺波第2鑑定の糸密度・織密度によってウエストサイズを推定した部分は信頼のおけるものであることを明らかにした。

 糸密度・織密度とは、わかりやすく言えば、織り込まれている糸の密度であり、一定の面積の中に何本の糸が織り込まれているかを測定することにより、明らかにすることができます。

 ズボンについては、袴田さんの実家から発見されたとされる、端布が証拠として提出されており、ズボンの元々の糸密度・織密度が明らかになっているので、ズボンの糸数と端布の織密度を用いて計算すれば、当然、元々のウエストサイズがほぼ正確に確認できるはずだからです。

4 間壁鑑定の意義

 原審の東京高裁判決は、単に「寸法4、型B」の表示から、当時の規格でウエストサイズ84cmの「B4」サイズであったとし、それが1cm小さく縫製され、さらに小売店で約3cm詰められたものであるから、袴田さんが「本件当時には本件ズボンを優にはけたものと認められる」(同判決書35丁表)と推認しました。

 しかし、糸密度、織密度によって計算した数値が、きわめて精度が高いことは明らかですから、東京高裁が認定した数値よりも間壁鑑定の数値の方が、はるかに信用性が高いことは明らかです。

 また、原審東京高裁判決は、本件ズボンが袴田さんにはけなかった理由は、体重の増加やしわの固着などが理由であり、事件発生当時ははけた筈であるとも言っています。しかし、前述のとおり、本件事件発生当時、袴田さんがはいていたズボンは、着装実験の際にもはくことができたのですから、体重の増加が理由にならないことは明らかなのです。

 以上から、間壁鑑定により、5点の衣類が、袴田さんのものであるという原審の認定を覆すことが可能になるのです。

 そして、次に説明する沢渡鑑定により、5点の衣類が犯行着衣であったということも、否定されることになり、間壁鑑定と沢渡鑑定を併せて、5点の衣類がねつ造されたものであることを明らかにすることができます。

L 沢渡鑑定について(伊豆田悦義弁護士)

 袴田さんの右肩上部の傷と、半袖シャツの右袖部分の損傷(血痕)、スポーツシャツの損傷の位置関係から、同一機会に生じたものとは考えられない(沢渡第1鑑定)。また、ズボン、ステテコ、ブリーフに付着した血痕の位置関係から、通常着用状態で外側から新党したとはおよそ考え難い。付着している血液の量も、極めてわずかなものである。原審判決は経験則をあいまいにして導かれた、誤った結論である。

(資料) 『「沢渡鑑定」について』 文責:伊豆田悦義弁護士

1 5点の衣類が犯行着衣であり得ないことを、当該着衣の客観的状況(損傷の部位及び血痕の位置)に基づいて明らかにした新証拠である。

 沢渡千枝静岡大学教育学部助教授(被服学)による。

2 沢渡第1鑑定(1997.7.17鑑定書、実験報告書)

(1)概要

 1、確定判決の事実認定

 袴田さんの右腕上部の傷、半袖シャツの右袖部分の損傷(血痕)、スポーツシャツの右袖部分の損傷→袴田さんが犯行時5点の衣類を着用していた際に右腕上部に受傷したと認定

 2、傷と損傷の客観的位置関係

 ←(上=肩口)                     (下=手先)→

 @半そでシャツの損傷(血痕)→ Aスポーツシャツの損傷→ B体の傷 順

 3、鑑定手法

 5点の衣類に類似した衣類を、当時の請求人と体格の近い被験者に着用させて実験

(2)鑑定結果

 1、体の傷と簡素でシャツの血痕の位置関係について

 【実験により得られた法則】

 半そでシャツ内部の血痕が、身体の動きによって腕の傷の位置とずれて付着するときには、そのずれの方向はほぼ下方(手先の方)に限られる。

 【客観的状況】

 半袖シャツの右袖上部の内側から付着している2個のB型血痕は、袴田さんの右腕上部の傷のいちより上の方向にある。

 【結論】

 半袖シャツの血痕は、袴田さんがこれを着用中に右腕上部の傷から出血した血液が付着したものとは考え難い。

 2、体の傷と衣類の損傷の位置関係について

 【実験により得られた法則】

 スポーツシャツの傷が体の傷の位置と一致するのは、袖が相手方に引っ張られた場合だけであるが、その際に衣類の損傷ができたとすると、アンダーシャツの損傷部分の方が上着の損傷部分よりも下方に位置する。

 【客観的状況】

 半袖シャツの損傷部分がスポーツシャツの損傷部分よりも上の方向にある。

 【結論】

 半袖シャツとスポーツシャツの各損傷部分及び袴田さんの右腕上部の傷は、袴田さんがこれら衣類を着用中の同一機会にできたものとは考え難い。

cf)パジャマの右袖部分にも損傷が存在する。

3 沢渡第2鑑定(1998.6.28鑑定書、実験報告書)

(1)概要

 1、確定判決の事実認定

  ズボン、ステテコ、ブリーフに付着した血痕→袴田さんが犯行時5点の衣類を着用していた際に被害者の血液が外側から付着して浸透したものと認定

 2、血痕の客観的状況

  ブリーフにはB型の血液が付着

  ステテコにはもっとも多量に血液が付着しているがB型の血液の付着は認められない。

  ズボンには血液が薄く付着していた。

 3、鑑定手法

  5点の衣類に類似した布地を用いて血液の浸透状態を実験

(2)鑑定結果

 1、ステテコとズボンの血痕の位置関係について

 【実験により得られた法則】

 ズボン地表面に血液を注いでも内側への浸透はまったく起こらない。

 血液が乾燥しない間に外側から加圧すると裏地にまで浸透する。

 血液がステテコ地に達する場合は必ずズボンの裏地に明瞭なシミを作る。

 【客観的状況】

 裏地のシミ位置に対応する部分のステテコ地にはほとんどシミがない。

 逆に、裏地にシミがない部分のステテコ地に広範囲かつ明瞭なシミが存在。

 ブリーフには、ズボンとステテコに付着しないB型血痕が存在。

 【結論】

 ズボン、ステテコ及びブリーフに付着している血痕は、通常の着用状態で外側から血液が浸透し付着したものとは考え難い。

2、ステテコに付着する血液量

 【結論】

 もっとも多量に血液が付着しているステテコでも、その血液付着量は多くとも20mlである。

M 凶器とされたくり小刀(中川真弁護士)

 木工細工用に使用されるくり小刀は、片刃のもろい刃物で、被害者4人合計40箇所もの損傷を与える凶器とはおよそ考えられない。また被害者の傷には、刃身の長さが約13cmのくり小刀では到底つけられないものがいくつか存在する。くり小刀には目釘も打たれていないので、刺突を繰り返せば柄が抜けてしまう。また、鍔もついていないくり小刀で4人を繰り返し刺突したにもかかわらず、袴田さんの手には小さな傷があっただけだった。

(資料) 凶器とされたくり小刀 文責:中川真弁護士

1 くり小刀とは

* 木工などの加工をするための小刀。柄には刃体を差し込んであるだけで目釘は打っていない。

2 被害者の受けた傷

専務   右前胸や右側胸などに 約15箇所

      第5肋骨を切断

二女   右胸部、左胸部などに 約10箇所

      第5肋軟骨を貫通、第4肋骨部を刺切

長男   頚部、右胸部などに  約10箇所

      第6肋軟骨を切断

専務妻  おとがい部、胸部などに  6箇所

合計40箇所以上の刺切創があった。

3 刀身の長さ・・・・・・押田鑑定

 最初の死体解剖鑑定書は法医学的に非常に不備なものであった。創口(傷の入口)、創縁(傷の縁)、創端(傷の端)、創角(傷の角度)などの所見がなく、創口を接着した長さも計測していない、体表の傷と内部臓器の損傷の関係が不明など。

 二女の体の傷のうち、左乳嘴外方5.0cmの部分から左第5肋骨を切離し、肺臓を貫通し、心嚢を貫通し、左心室を貫通し、第9胸椎骨左側に至る距離を二女と同年代、同体型の2人のボランティア女性のCTスキャン映像でその距離を計測した。このうち、1人は17.8cm、もう1人は15.9cmであった。子大差はあるものの、二女の身体につけられたこの傷は、刀身の長さが約13cmのくり小刀ではつけられないことが判明した。

4 刃物の変形

 犯行凶器とされたくり小刀は刃先が約2cm欠損していただけで、刃体も曲がっていない。人体に40箇所以上もの刺切創を負わせて、刃物の損傷がこれだけということはありえない。

5 刃物の強さ

 軟骨を切断したり、貫通したりするには、刃物が強靭でなければならない。くり小刀は木工細工用の刃物であり、そんな強さはない。また、目釘も打たれていないので、刺突を繰り返せば、刃体が柄から抜けてしまう。

6 犯人の手

 人を刺すとその返り血などで手が滑りやすくなる。鍔もついてなく、木製の柄がついているだけのくり小刀で4人もの人を刺せば、犯人の手は創だらけになっていなくてはおかしい。しかし、袴田さんの手には中指の先に小さな傷があっただけ。

N 浜田鑑定・手紙分析・上告趣意書草案分析
(田畑知久弁護士)

 45通にわたる袴田さんの自白の変遷を分析した心理学者の浜田寿美男教授は、事実を知らない者が自白をしたことを示す“無知の暴露”があると説明した。袴田さんが家族へ送り続けた手紙からは、およそしんはんにんとは思えない暖かい人間性や、思いやりが込められている。また、控訴棄却後袴田さんが獄中で書き上げた上告趣意書草案には、警察や裁判所への怒りや、自白してしまった自分への悔悟など、無実の者の心からの叫びが記されている。

(資料)浜田鑑定・手紙分析・上告趣意書草案分析  文責:岡島順治弁護士

1.浜田鑑定

 これは、著名な心理学者浜田寿美男教授が袴田さんの全45通の自白調書を分析したもの。

 袴田さんの自白は、取調官が「袴田さんの無実の可能性を一顧だにせず、文字通り『犯人は袴田以外にいない。犯人は袴田に絶対間違いない』との信念のもと(警察の内部捜査記録の方針として記載されている。)に、断固として自白を要求した」結果、得られたものであり、45通の自白調書が存在する。

 一審の静岡地裁判決で証拠として採用したのは1通だけであり、他の44通は証拠から排除した。

 浜田先生は、うそ分析、無知の暴露分析、誘導分析という三つの観点から供述分析を行なった。

 浜田教授によれば、袴田さんの自白には、客観的事実と明らかに齟齬があるが、虚偽の事実を述べる場合には、理由なしには述べない。その理由の有無を分析し、それを真犯人のうそとして整合的に理解できるか、それともそこに捜査官の誘導に引きづられた無実の人間の必死の想像の産物とみるべきかを検討した結果、袴田さんの自白は、真犯人であれば絶対知っているはずの無知の暴露があり、自白の変遷も捜査結果に引きずられたとしか合理的に説明できず、およそ真犯人の自白とはいいがたいと断言した。

 なお、浜田鑑定のエッセンスは、『自白の心理学』(浜田寿美男著・岩波新書)に書かれている。

2 袴田さんの手紙の分析

 @ これは、袴田さんが手紙を書くことを許された1966年10月から控訴棄却後の1976年9月までの書簡を分析したもの

 A 手紙の分析の意義

 袴田さんにとって、手紙は母親等親族との交流をするためのもっとも日常的な手段であり、また自身の心の安定を図るために綴られたものである。その折々に袴田さんの必死の思いが伺われる。これは、後日裁判の証拠になることを予定して書いたものではない。それだけにこれらは請求人の本音、本心が吐露されている。

 本分析は

(1)袴田さんの家族に対する心情(請求人の人格証拠)

 非常に親思い、兄弟思い、家族に心配をかけまいとする心情

(2)袴田さんの裁判所に対する考え方(無実であることからくる絶対的信頼から不信へ)

 当初、無邪気といってもいいほどの公平な裁判所に対する絶対的信頼から、一転裁判官への不審へ(無実の者の心理)

(3)袴田さんが無実であることを示す箇所(真犯人であれば、必ず了解している事実についての無知「無知の暴露」)

 例えば、袴田さんは、5点の衣類の発見時においても、むしろ自分に有利な証拠であると判断し、「これでますます有利になった」と書いている。しかし、真犯人であったら、有罪の決め手の5点の衣類が発見されたことで、動揺するはずである。

 また、手紙の中に「早期の判決」を求める記載が何度もある。仮に、請求人が真犯人であれば、必ず自分が死刑判決になる恐怖を抱くはずであり、そこから逃れようとすれば、速やかな判決よりも遅々として進まない裁判を望むのが自然であるが、「早期の判決を望む。」と再三希望をのべているのは、無罪だからこそである。

 他にも、袴田さんが真犯人であったら、絶対になされないと考えられる発想、また当然知っているはずの事実についても「無知」がある。

3 袴田さんの上告趣意書草案

 これは、袴田さんが控訴審判決後、2ヶ月足らずの間に、誰に相談することなく、自分一人の認識のもと一気に書き上げた上告趣意書の草案(B4、26行の罫線原稿用紙95枚、改行がほとんどなく総数にして6000文字程度)であり、丁寧な文字で書かれている。その内容は、無実の人間しか表すことの出来ない、腹の底から湧き出てくるような裁判所や警察に対する強い憤りが随所にちりばめられており、袴田さんの生存を賭けた「無実の絶叫」というべきものである。また誰の力も借りないで自分の認識した事実だけをもとに、当時の弁護人さえも見落としていた無実を裏付ける主張や真犯人では到底なしえない無実の者だからこそ言える主張がなされており、正直言って当時の弁護団が袴田さんのこの上告趣意書をもっときちんと汲み上げていれば違った形になっていたのではないかと思われる。