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弁護団は東京高裁に何を訴えたか(3.15再審開始を求める集会より)
8月3日東京高等裁判所 第2刑事部へ最終意見書を提出!

(記者会見資料)


     袴田事件記者会見発表事項  2001.8.3 袴田事件弁護団

 

一 袴田事件弁護団は、本日、午前11時30分より、東京高裁第2刑事部裁判官 各位と面会の上、即時抗告審・最終意見書を提出すると共に、本件について は、鋭意、審理を促進され、一日も早く再審を開始されるよう強く要望した。

 

二 当弁護団による即時抗告審・最終意見書の概要は、以下のとおりである。

  尚、詳細については、本日、配布にかかる意見書全文を参照されたい。



 第一章 確定判決の不合理・不自然な事実認定

  確定判決のした事実認定は、素朴な市民生活上の経験則に照らしても、余 りにも不自然・不合理なものである上、「疑わしきは被告人の利益に」の刑 事裁判の鉄則を踏み外した、明らかに誤ったものである。

  例えば、@刃渡り約12pに過ぎない「くり小刀」をあえて携帯して被害者 宅に侵入し、格闘した上、刃先が欠損し、「鍔」も「目釘」もない脆弱な  「くり小刀」で、4人の被害者に対して合計40創以上の傷を負わせて殺害す ることは、通常、不可能であると考えられる点、A他面、犯人とされた請求 人の身体の前面、顔、手等には何等の防御創や格闘傷が存在していない点、 B4人の被害者は、深夜、自宅に侵入してきた犯人に、次々と殺害されたこ とになるが、1人も逃げることをせず、かつ、近隣に助けを求めることもし ないまま、順番に、おとなしく殺されるのを待っていたことになる点。C犯 人は、雨合羽を着て、被害者宅裏口から木に登り、屋根を伝って被害者宅に 侵入した等、あたかも「忍術使い」のような異常な侵入方法をとったと認定 されている点。D犯人は、わざわざ証拠隠滅の目的で放火したとされている のに、何故か「5点の衣類」だけを一緒に焼却せず、後日必ず発見される筈 の味噌タンク内に投げ込んだとされ、しかも請求人は、逮捕されるまで平然 と被害者宅に従前どおり住み込みで働き続けていた点、等々。

  このような数々の不合理・不自然は、裁判所のした事実認定が、健全な市 民的常識や経験則から逸脱し、もし裁判官が予断と偏見を抱くことなく常識 的な判断を心がけたならば、本件起訴に対しては合理的な疑問が生じ、請求 人に対して無罪判決がなされたことを強く示唆していると考えられる。    

第二章 本件捜査経過の異常・違法・不当性        

 一 本件の捜査においては、「請求人犯人説」に固執する捜査当局の予断・  偏見が露骨に表れている。すなわち、@見込み捜査、A自白偏重、B誘導、  証拠の偽造、隠匿、C客観的捜査の不備、D検察の警察捜査をチェックする機能の欠落、等が余りにも顕著である

 二 とりわけ、初期捜査については問題点が多い

 三 確証なき逮捕、自白強要・違法取調べが随所に行われている

 四 初期の捜査段階当時に、既に証拠捏造の徴表が顕著に表れており、「5  点の衣類」の捏造は、その延長上にあると考えられる          

 五 捜査報道の問題点と報道機関への「リーク」、そして「請求人犯人説」  を決めつけた「新聞判決」  

 

第三章 確定判決の証拠的基礎と事実認定上の問題点(旧証拠の再評価)  

 一 異常な訴訟進行の過程…捜査・起訴の誤りの検察官による自認

 二 「合議の分裂」を顕著に示す原一審判決

 三 確定判決の説示中に存在する矛盾と撞着

 四 「パジャマ」は請求人無実の証明である

 五 5点の衣類は、犯行着衣でもないし、請求人の着衣でもない

 六 請求人の自白調書には任意性もないし、信用性もない

 七 「寄りかかり証拠」には、信用性がない

 八 確定判決の事実認定は、非常識であり、欺瞞的でさえある

 

第四章 再審請求審で提出した新証拠とその証明力 

 一 静岡県警本部作成の「捜査記録」 

  1 捜査記録によって明らかとなった人権蹂躙の捜査・取調べの実態

  2 「見込み捜査」の先行と請求人の逮捕

  3 警察が抱いた「請求人犯人説」の予断・偏見              

 「『犯人は袴田以外にない』『犯人は袴田に絶対間違いない』との『確固たる信念』をもって取調べ、請求人に『犯人だという印象を強    く裏付ける必要がある』と考えて捜査がなされている  

      

二 浜田寿美男教授作成の鑑定書

  1 原決定のした浜田鑑定書に対する評価は誤っている          

  2 「袴田自白」が示す「無知の暴露」、すなわち請求人が「無実であることの暴露」

  3 浜田鑑定書の積極的意義…「請求人の自白は絶対に真犯人のしたもの   ではない、すなわち請求人は真犯人ではない」ことを示す

  4 浜田鑑定のエッセンス

 三 請求人作成の肉親宛獄中書簡

  1 請求人の親族に対する優しさ、いたわり、感謝の念の表明(請求人の人間性、人格の発露)

  2 請求人の裁判所・裁判官、検察及び弁護士に対する思い…その時系列的な変遷を辿ることにより、請求人の無実が判明する

  3 請求人が無実であることを示す記述

   (1) 無罪の確信

   (2) 5点の衣類発見の際の請求人の記述

   (3) 弁解の欠如

  4 「なぜ虚偽の自白をしたのか」についての記述

             ―「自己の生命を守る」ために自白した―

 四 請求人作成の「昭51年7月22日付け上告趣意書草案」

  1 長時間・違法な取調べについての請求人の記述…「トイレにも行かせない、水も飲ませない、汗を拭くことも許さない、眠らせてくれない拷問的な取調」    

  2 請求人の自白は、「自らの生命を守るため」になされたもの

  3 9月9日付け自白調書は「本件真相を知らない者たちが集まって生み出された机上の空論」

  4 事件に対する「第三者的・客観的な推理」

  5 「5点の衣類」に関する記述…端切れの発見過程への疑問と捏造説の展開

  6 「上告趣意書草案」の意味…無実の者のみが確固として把持し得る「真実を背後に持つ迫力」に満ちた訴え

 五 「5点の衣類」関係の新証拠

  1 5点の衣類は犯行着衣ではない

  2 澤渡第1鑑定(1997.7.17鑑定書、実験報告書)の意味

  3 澤渡第2鑑定(1998.6.28鑑定書、実験報告書)の意味

  4 間壁治子教授作成の鑑定書

      小さ過ぎてはけないズボンが請求人のものである筈はないし、請求人がそれを着用して本件犯行を犯すことは不可能である  5 味噌タンク関係の新証拠                       

    @味噌タンク実験報告書(平成2年8月28日付小川秀世作成)

    A写真報告書(平成4年5月27日付小川秀世作成)

    B岩崎和一供述録取書(平成12年10月25日付弁護人小川秀世等作成)

 六 「くり小刀」に関する新証拠         

  1 押田茂實の平成5年5月10日付、平成7年6月5日付各回答書…扶示子のG創は、本件くり小刀では成傷不能           2 横山正義の平成4年3月8日付鑑定書…藤雄、扶示子の傷には、本件くり小刀では成傷不能の傷が存在する

  3 津田征郎作成の平成5年9月25日付及び10月7日付け鑑定書…扶示子、雅一郎の傷の中には、本件くり小刀では成傷不能のものが存在する

  4 ビデオ「くり小刀は凶器ではない」と補充書(9)添付の関連証拠及び動物屍体実験報告書

  5 その他の新証拠

 七 「裏木戸」関係の新証拠

  1 昭和56年2月26日付前田尚美外の鑑定書

  2 昭和63年5月13日付横田英嗣の鑑定書

  3 平成4年8月5日付小川秀世作成の再現実験報告書

  4 平成6年6月1日付け検証申立書に添付したビデオテープ

    以上の新証拠は、上部留め金を掛けたままで裏木戸を脱出しようとしても不可能であることを示している

 

第五章 新旧両証拠の総合評価により明らかとなった原決定の誤り

 一 「自白調書の位置づけ」の問題

 二 出入り口、脱出口に関して

 三 凶器とされた「くり小刀」に関して

 四 再審制度運用に関する現在裁判所の到達点

  1 再審制度の理念と目的                       

  2 「白鳥・財田川決定」の意義

  3 「白鳥・財田川決定」から見た原決定の誤り             

  4 「証拠予断禁止の原則」違反…再審請求審における証拠取調義務違反

  5 「旧証拠の再評価」の放棄と「新旧証拠の総合評価」の不履行

 

第六章 おわりに(以下、ほぼ全文のママ)                

一 「35年間」という歳月

   1966年6月30日深夜、静岡県清水市所在の「味噌工場一家4人殺害事件」発生以来、既に35年が経過した。                その当時、味噌工場で住み込みで働いていた請求人は、同年8月18日に犯人として逮捕されて以後、完全に実社会から隔離・遮断されて獄中生活  を強いられ、今、確定死刑囚として東京拘置所に拘禁されている。      

 長年の拘禁生活により、請求人は「拘禁症精神障害」を患っており、現在では、家族や再審支援者、弁護人等との面会すらもできない情況にある。   

 長期に亘る拘禁生活とその間に、日常的に彼を襲ったであろう死刑執行に対する恐怖感は、彼から正常な精神生活を営む力を奪い去り、現在、弁護人と再審事件の進行について打ち合わせすらできない状況にある。

   判決確定直後から既に、冤罪性の極めて高い事件として各方面から注目されてきたこの著名再審事件も、今や、再審請求(昭和56年4月20日)の時点から数えても、もう既に20年の歳月が経過している。

 

 二 袴田事件は冤罪である

   日弁連編「再審」日本評論社1977年出版、同編「続・再審」同社1986年出版、K・ペータース「誤判の研究ー西ドイツ再審事例の研究ー」能勢弘之他訳・北大図書刊行会1981年出版、日弁連人権擁護委員会編「誤判原因の実証的研究」現代人文社出版1998年出版等、これまでの数々の誤判・冤罪を考察し、誤判原因を分析・究明した研究成果を通観すると、誤判原因には多々あるが、我が国で最も主要なものとしては、@客観的捜査の不備と見込み捜査、A別件逮捕・勾留と手続の違法、B代用監獄における自白の強要、C自白偏重・供述証拠の過信と物証の軽視、D証拠物等の取扱いの杜撰さないし不正、E証拠の不開示と物証の隠匿、捏造、F捜査段階における弁護活動の弱体の問題、G裁判官による鑑定の盲信、H裁判官による被告人に対する予断・偏見、I目撃証言の過信とアリバイ潰し、等が挙げられている。  

   本件袴田事件が冤罪であり、請求人が違法・不当な捜査・起訴・裁判による冤罪の犠牲者であることは、これまでに縷々述べてきたところから、もはや明らかになったものと我々は確信する。               

 何故なら、この事件には、上記誤判原因の殆どが散りばめられており、まさにこの事件は、典型的な冤罪、「正真正銘の冤罪」「冤罪の中の冤罪」であるからである。

   それだけに、事件発生以来今日に至るまで、無数・無名の市民がこの事件に関心を持ち、それぞれが現地調査や裏木戸実験に参加し、また各種の講演会・シンポジュウムにおいて袴田事件の冤罪性を確認し、また、支援運動のカンパや署名活動を通じて、互いに互いを支え合うことをしながら今日までやってきたのである。

   そして、TV等、我が国マスコミ・ジャーナリズムも、この冤罪事件を種々の角度から取り上げ、広く国民に向けて放映し続けてきている。 

 この冤罪事件については、国外・国内の広範な各層市民が、それぞれの角度から関心を抱き、我が国の司法システムが、この冤罪の決着をつけるために果たしてどのように対処するのか、じっと凝視しつつ、その成り行きを見守っているところである。

 

 三 請求人袴田巌の人間性

   請求人袴田巌氏は、人に対して温かく優しい心を持ち、また人間として不当な権力に対しては毅然と立ち向かう精神を持った実に立派な人物である。

   ここで、彼が1983年2月8日付け獄中日記(115頁以下)で、「手紙」風に自らの子息旭氏に熱く語りかけている文章を紹介する。

   「…息子よ。どうか直く清く勇気ある人間に育つように。すべて恐れることはない。そして、お前の友達からお前のお父さんはどうしているのだと聞かれたら、こう答えるが良い。僕の父は不当な鉄鎖と対決しているのだ。古く野蛮な思惑を押し通そうとする、この時代を象徴する古ぼけた鉄  鎖と対決しながら、たくさんの悪魔が死んでいった。その場所で(正義の偉大さを具現しながら不当の鉄鎖を打ち砕く時まで闘うのだ。     

   息子よ。お前が正しい事に力を注ぎ、苦労の多く冷たい社会を反面教師  として生きていれば、遠くない将来に、きっとチャンは懐かしいお前の所  に健康な姿で帰って行くであろう。そして、必ず証明してあげよう。お前のチャンは決して人を殺していないし、一番それをよく知っているのが警察であって、一番申し訳なく思っているのが裁判官であることを。…(以上、原文のまま)」  

 

 四 無実の者には一日も早い再審・無罪を

   無実の者が処罰されてはならない。                   

 ましてや、無実の罪で生命を奪われて良い訳はないし、指摘してきたとおりの余りにも杜撰な「判決」によって、人が死刑になってよい訳など絶対にない。                              

  しかし、請求人は逮捕された昭和41年8月18日以来、ひたすら無実を叫びながらも、未だに獄舎に繋がれたままである。        死刑判決とその執行の重圧・恐怖とは、彼の魂を痛々しいまでに苛み続け、彼は現在、前記のような精神的障害状態下にある。

   現在の我が国裁判システムの下で、裁判官のした判決に誤りがない等ということは絶対にない。このことについては、今では数多くの人達が、はっきりと気付き始めている。既にこれまでに、4人もの人間が、一旦は死刑判決が確定しながらも再審によって救済されている。           

 冤罪を生むことのある司法システムは、同時に、冤罪者を必ず救済できる強いシステムを持たないことには、刑事裁判とは、人の生命を合法的に奪い去る単なる「殺人機関」に成り下がってしまうことであろう。

   しかし、わが国は、先輩裁判官の犯した誤りを、他の裁判官によってきちんと是正することのできる再審制度を有する法治国家である。       

 そして、その保有する良識と叡智とによって確定判決の欺瞞をうち破り、冤罪に苦しんでいる者を救済することができるのは、貴裁判所の裁判官しかいないのである。                           

 何卒、我が国司法の権威と人間の尊厳にかけて、そして我が国裁判官の理性と良心の健全なることを世界中に明らかにするためにも、この明白なる冤罪者に対して、直ちに救済の手を差しのべて頂きたい。

  この確定裁判の誤りを明らかにし、請求人を一日も早く獄舎から解き放ち、実社会に迎え入れることができるかどうか。         このことは、我が国が果たして健全なる司法を有する「文化国家」なのかどうか、世界中の各方面から凝視されていることでもある。   

                                   』

三 東京高裁第2刑事部における即時抗告審は、新証拠の提出、再審請求理由 に関する主張の段階を経て、今後は、裁判所における証拠の採否、或いは即 時抗告審の終局決定を待つ段階に入ったことになる。

  我々は、請求人の健康状態、精神状態を考慮し、本件については能うかぎ り早い時期に、できれば今年内に、または遅くとも来年3月までには、請求 人の人たるの権利を十分に配慮した、歴史的批判に耐え得る公正なる判断が 下されるものと確信している。

                                 以上

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